社会保険労務士事務所の仕事内容

社会保険労務士事務所の仕事内容

社労士試験に合格した人、これから受験する人の中で社労士事務所への転職を検討されている方も多いと思います。

でも、これまで人事労務部門で働いていた人以外は社労士事務所での仕事内容がいまいちはっきりしていないこともあるでしょう。

そこで、社労士合格後すぐに社労士事務所で働き始めた自分の経験から主な仕事内容をご紹介していきたいと思います。

社労士事務所の仕事内容

給与計算

社労士事務所の仕事での大半を占めるもの、それは給与計算です。

顧問先の企業から委託を受け、社労士事務所で企業の役員から従業員までの給与を計算する仕事です。

給与は当然毎月支給されるので、1企業につき月1回納品する必要があります。

この給与計算ですが、『かなり』奥が深いです。

社労士試験では、雇用保険や社会保険を主として学びますのでこれらの知識が必要となるのは当然のこと、本来税理士が専門である所得税や住民税の知識も必要とされます。

この所得税と住民税がかなり厄介です。

※もちろん雇用保険と社会保険も厄介ですが…

なぜなら社労士試験に合格した人は税のことは全く学んでいないからです。

どういう仕組みで住民税が課されるのか、どこの市区町村にどうやって納付するのか、その納付期限はいつか、ではその手続きはといったことを一から勉強する必要があります。

しかし、先ほども述べたとおり、給与計算は毎月1回納品する必要があるので、顧問先も待ってはくれません。

ですので、これから社労士事務所に転職するぞ!という意志をお持ちの方はまず給与計算の本を買って事前に勉強しておくことをお勧めします。

普通に人事総務ではなく普通のサラリーマンとして働いていた人ならわかると思いますが、給与なんて当然間違っていないものであるという認識が強いと思います。

その認識は給与計算を委託する側(顧問先)も当然あります。

ですので、間違いが許されない環境でかなりシビアに確認をしながら給与計算を進めていかねばなりません。

※実際はどんなにベテラン職員でも間違えることはあります。

給与納品直後の顧問先からの電話はトラウマになるほど怖いものです。

実体験として間違えるとかなり怒られますし、嫌みも言われます。

顧問契約解除するぞ!なんて言われることも…)

しかも、普通の事務所であれば、複数のチェック体制が構築されていると思いますが、当然細かい部分は担当者しかわかりません。

上司がチェックしてくれるから大丈夫といった安心感はまるでありません。

自分一人でも完全な間違いのない給与を納品するという確固とした覚悟が求められます。

何よりきついのが給与は支給日が定められているので納品日、つまり、締切が存在します。

各社の納品日を把握して、1か月のスケジュールを組み必ず納品日までに納品する必要があります。

たまに夏季休暇やシルバーウィークなどがありますが、連休のせいで納品日までの期間が短くなり、遅くまで残業するなんて言うのは日常茶飯事です。

給与計算には通常、給与計算ソフトを使います。

どのソフトを使うかは事務所によって様々ですので、社労士事務所から社労士事務所に転職したとしても違う給与計算ソフトでてんやわんやといったことも多々あります。

ですので、いかに早く給与計算ソフトを使いこなせるかといった吸収力・柔軟性も求められます。

ただ、どのソフトを使おうと給与計算の肝は一緒なので経験は蓄積はされていきます。

他に給与計算で難しい点としては、フレックスや裁量労働の導入です。

当然通常の給与計算と異なる要素が出てくるので原則となる知識を総動員して給与計算を進めることとなります。

フレックスや裁量労働を導入する企業というのは自社スタッフの知識が豊富であることが多いので、納品物にツッコミが来るなんてこともざらにあります。

そのスタッフよりも詳しくなければならないのでやはり日々の勉強が欠かせません。

また、本来は税理士が専門ですが、年末調整も併せて社労士事務所が請け負っているケースも多々あります。

その場合、必要な書類は何か、税法上の扶養とは何かといったことも理解しておく必要があります。

年末調整は給与計算と違い、年1回ですが、ここで間違えると後から修正するのは相当面倒なので確実に間違いなくこなす必要があります。

社会保険・労働保険の手続き

給与計算の次に社労事務所のメインとなる業務は手続きです。

社会保険・雇用保険の加入から、離職票といった喪失の手続き、社会保険の扶養の手続きがメインとなります。

正直なところ給与計算と比べると難易度は下がります。

現在では、電子申請が主となっているので情報を入力していくだけでこなしていくことができます。

ただ、例えば雇用保険加入にて性別を間違えたり(キラキラネームは要注意)、社保加入や扶養追加で名前を間違えたりするなんてこともよくあります。

その場合、電子申請ではなく紙での申請となることも多いため、非常に面倒ですし、何より顧問先に謝らなくてはならないので大変です。

ですので、手続きにおいても間違えずに確実にこなすことが求められます。

ただ、これらの手続きは社労士試験で勉強した内容をフルに活かせるのでやりがいはあります。

勉強した内容と実際の手続きで大きく違うのは手続き期限日です。

正確には勉強した内容と異なることはないのですが、実際の手続き上5日以内に行うとかは結構ゆるいです。

1か月後に雇用保険加入の手続きをするなんてことはざらにあります。

むしろ6か月以上遡って雇用保険に加入するとなると、遅延理由書や出勤簿、賃金台帳を添付する必要が出てくるのですが、こうしたケースもまれにあります。

他にも新規に法人を立ち上げたときに社会保険の新規適用の手続きや、労働保険成立の手続きをすることもあります。

これも一見難しそうではありますが、基本的に最新の法人の登記簿謄本を添付しておけば何とかなることが多いのでそれほど難しくありません。

就業規則作成

給与計算や手続きと比べるとこなす量は少ないですが、就業規則の制定や改定も比較的多くあります。

単純に就業規則だけでなく、給与規定や育児介護休業規定などの制定・改定もあるので幅広い知識が必要です。

ですが、基本的に事務所にはテンプレートが存在していることが多いのでそこから引っ張り出して、顧問先と相談しまとめていく作業がメインとなります。

手続き上は変更届と意見書を添付して労働基準監督署に届けるだけなので簡単です。

この就業規則も社労士の勉強に大きくかかわる部分なので個人的には好きな業務です。

人事制度・賃金制度の構築

いわゆる3号業務となります。

企業に対してコンサルティングをしていく業務であり、給与計算等の知識をフル活用して取り組まねばなりません。

これらの業務は事務所によってはあまりやらないところもあります。

他の業務とは一線を画す業務であるため、得意な社労士とそうでない社労士が存在します。

ただ、顧問契約とは段違いな報酬であることも多いため、これから開業することを意識している人はこれらの業務の経験が積める事務所に就職するのが望ましいです。

(それか企業人事、人事コンサルティング会社に就職するかの選択肢があります)

自分はまだ新米なので一緒に同席するぐらいしかしていないですが、これらの3号業務の経験が積みたかったのでそれが得意な事務所を選びました。

助成金代行

これも事務所によってはやらないところもありますが、分量としては給与計算と並ぶほどにあります。

特に今のご時世的に雇用調整助成金の依頼は山のようにあります。

ただ、雇用調整助成金はコロナの特例もあり、手続きが簡素化されているのでそれほど難しくはありません。

顧問先から書類を集める単純作業が多いので個人的にはあまり好きではありません。

ですが、このコロナ禍で雇用調整助成金バブルといわれるほどの代行報酬で稼いでいる社労士事務所も多いです。

他にもよくある助成金としては、キャリアアップ助成金があり、それに続いて両立支援等助成金などがあります。

これらは雇用調整助成金と違い、コロナ禍関係なく存在し、今後も国が進めていきたい政策の一部ではあるので申請の経験を積むのは非常に有用です。

どの助成金でもそうですが、申請期限が定められており、それを過ぎるとどう頑張っても申請できないので期限管理を厳密に行っていく必要があり結構しんどいです。

でも、面倒な助成金ほど支給決定された喜びはかなりのものなのでやりがいはあります。

労使協定

労使協定としては代表的なものとして36協定があります。

作るの自体は該当者の人数を把握して、残業時間の限度を設定していくだけなのでそれほど難しくはありません。

ただ、これも申請期限があるのでシビアに管理することが求められます。

他にも裁量労働制や変形時間労働制の協定書もあります。

労務相談

これも社労士事務所のメイン業務の一つです。

顧問先から労務に関わる質問を受け、それに回答するというものですが、非常に幅広い、かつ、正確な知識が求められます。

自分が受けた労務相談の一例としては、衛生管理者が退職してしまって、次の有資格者が見つからないがどうしたらいいかだとか、転籍者の有給取得義務は出向元と出向先のどちらが義務を負うのかだとか、単に資格勉強しているだけでは答えられない質問がたくさんきます。

答えられるものはその場で答えますが、多くの質問には労働基準監督署や年金事務所、ハローワーク等に確認してから答えたりします。

これらの労務相談をいかに明確にこたえられるか、早く答えられるかで顧問先からの信頼度が大きく変わってきます。

年度更新・算定基礎届

社労士事務所の繁忙期は年末調整がある12月と年度更新と算定がある6,7月の2つが挙げられます。

年度更新とは、社労士試験で勉強した概算保険料と確定保険料の申告・納付です。

算定とは、定時決定のことを指します。

なぜかはわかりませんが、この年度更新と算定の期限が7月10日と重なっているので、この時期はかなり忙しくなります。

当然、通常の手続きや給与計算、労務相談が減るわけではないのでそれと同時進行で年度更新と算定も進めていく必要があります。

算定はまだ電子申請ですべて完結するので楽ですが、年度更新は納付をする必要があるため、紙の納付書を作る必要があります。

(健保組合の算定の多くは紙申請ですし、年度更新は口座振替があるので一概には言えませんが…)

これも間違えると顧問先の労働保険料や今後支払う社会保険料の金額が変わってくるため正確な作業が求められます。

正直なところ作業自体はそれほど難しくありませんが、工数がかかるのでこの時期の社労士事務所はざわつきます。

ポイントとしては、早めに顧問先にアナウンスをし、6月初旬から年度更新を進め、7月は算定だけを取り組むというしっかりとしたスケジューリングができるかどうかが肝となってきます。

個人的には一番嫌いな時期がこの6,7月です。

有料職業紹介・労働者派遣の許可・更新申請

年に数回あるかないかですが、有料職業紹介・労働者派遣の許可・更新申請も工数が多く非常に面倒な業務です。

毎月あるといった性質のものではないため、ルーティーンの業務ではなくきちんと申請ができるよう労働局に逐一確認しながら丁寧に進める必要があります。

申請から許可まで2,3か月かかるため長丁場の作業となります。

ただこれらの業務は今後も増えていく可能性があるため、経験は積んでおきたいところです。

また、報酬額もほかの業務より高いことが多いので開業を志す人は経験しておいて損はない業務となります。

社労士事務所の残業時間

これまで社労士事務所の仕事内容を見てきましたが、社労士事務所に転職するにあたり、確認しておきたいのが、残業時間です。

あくまで1社しか社労士事務所を経験していない自分の体験談となりますが、6,7月と12月を除けばほぼ残業することはありません。

具体的には毎月残業時間が20時間を超えることはほぼありません。

これは事務所によってかなり異なってくるので一概には言えませんので、面接の際はそれとなく聞いておくといいと思います。

担当する顧問先の数

これもあくまで自分の経験となりますが、自分は40~50社くらいを担当しています。

もちろんほとんど労務相談もない企業から毎日電話してくる企業もいるので数だけでは語れませんが、だいたいどの事務所でも同じくらいかそれより少ない程度だと思います。

そして、基本的にチーム制ではなく個人で担当を持ちます。(これも事務所ごとに違います)

ただ、顧問先が多いほど業務量は増えますが、いろんな事例に触れることができるので経験値はかなり多くなります。

1企業の人事担当として勤務するよりは圧倒的に経験を積むことができます。

それが、社労士事務所に勤務する利点と言えます。

社労士有資格者の数

これは士業事務所全般に言えることですが、社労士事務所だからといって働いている人みんな有資格者かというとそうではありません。

何年も勤務しているベテランだけど資格は持っていないという人もいますし、現在受験中という人も多くいます。

事務所によっては資格手当や社労士の年会費の補助を支給している事務所もあります。

これも面接や求人票などで事前に確認しておくのがベターです。

まとめ

以上、社労士事務所の仕事内容等をこれから転職を考えている方向けに書いてきました。

これらはあくまで1社しか経験していない新米社労士である自分の体験談なので事務所によって異なる部分は多くあります。

ですので、一例として参考にしていただければ幸いです。

ただ、社労士事務所は社労士として働いていくにあたって必要な経験が積めるので社労士合格後の就職先としては個人的にはかなりおすすめです。

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